ラックマウントシャーシ

選択にはさまざまな考え方があり、一概にどのように選ぶのが正しいということはできませんが、一般的な事柄とその広がりに対する問題点を解説して、選択時のご参考に供したく考えます。
■ラックマウントシャーシって何だろう
ラックとラックマウントシャーシを混乱して呼ぶ方を見かけます。左の写真に見られるような筐体はラックではなく、ラックに集中実装可能なコンピュータのケースで、一般にはラックマウントシャーシと呼ばれます。ラックマウントシャーシはデスクトップ用のPCケースではなく設備機器としてのPC(IPC=Industrial PC = 工業用・産業用コンピュータ)を組み込みます。
おそらく、最も普及しているものは19インチタイプで、通常ラックマウントシャーシと言えば19インチタイプを言い、製品はRS-310C規格に準拠しています。このほかにも23インチとか24インチとか、11インチなどがあります。 RS-310Cで規格化されているおかげで、各社の製品の組み合わせがほぼ可能になっています。
■ラックマウントシャーシに求められる事柄
エンクローズド型またはオープン型のラックに決められたピッチで集中実装しますので、各シャーシは他の領域を侵犯しない寸法と構造が求められます。卓上に置いたときは問題なくても、ラックに実装したときに撓んだり変形したりして、上下(主に下)のシャーシの領域を侵さない硬性がまず必要です。低コストを優先しすぎたシャーシには、デスクトップPC用の材質を用いたケースにラックマウント用ブラケットを付けた程度の製品が見受けられますが、特に長い奥行寸法が要求されるラックマウントシャーシでは基本的条件を満たすことが困難です。また、輸送中に生じた歪で配送先に、マザーボードなどが破損して届く事故も耳にしますので、しっかりしたラックマウントシャーシを選定することが重要です。


同時に、設備機器としてのPCの多くは常時運転され、そのために費用もかけられます。連続して長期間に亘り要求される機能と性能を維持できることが当然必要で、ラックマウントシャーシには、内部に実装された電子設備に安全で安定な動作環境を提供できなければならず、ラックマウントシャーシには十分良好で安定した温度環境維持性能が要求されます。
ラックマウントシャーシには風量のあるファンが複数組込まれます。ファンの品質も長期間の使用を前提に騒音は高いのですが2重ボールベアリングかたが用いられます。あくまで一般論ですが、ラックマウントシャーシでは静音性よりも冷却性能が優先されます。これはブルトーザなどの産業用車両が乗用車と異なり、静音性より作業性を優先されるのに似ているかもしれません。


また同時に、可能な限り厳重なセキュリティーが要求されるものも少なくありません。これらにおいてはPC自体のみでなく、データセンタのようにその設置環境にも膨大なコストがかけられ、設置空間は高単位コストになります。このため、そこに設置される設備機器用のラックマウントシャーシには高い実装性能が要求されます。
 
■ラックマウントシャーシの標準規格
ラックマウントシャーシは、ラックとともにEIA-RS-310Cで規定されています。19インチラックに関する規定事項は極めて基本的な事項で構成と寸法を規定しています。簡単に言えば、ラックの縦方向のマウントレール(ラックの縦チャンネル)上のピッチは44.45mm(U=ユニット)ずつ増えてゆくこと、実装物のパネルは幅が482.6mmであり、パネル固定ねじ間隔は465mmであること、そして実装物のパネル以外の部分の幅は451mm以下であること、パネルの固定ねじ穴は短径7.1mmの長穴であること程度です。これらに準拠すれば、シャーシの設計はかなり自由です。つまり、さまざまなシャーシが可能です。

・・高さ
ラックへの実装を考慮すれば、ラックマウントシャーシは1U(44.45mm)単位で、1Uシャーシ、2Uシャーシ・・・・の様な縦方向寸法になります。実用的なラックマウントシャーシ製品としては1Uから10U程度までのものがあります。

・・奥行
奥行き寸法は実装するデバイスの要求によりさまざまです。200mm程度の短いものから800mm程度の長いものまでさまざまな製品があります。

・・構成
前述の通り、ラックマウントシャーシが実装される空間のコストは低くありません。そこで、許される空間に最大限の実装性能が要求されることになります。
では、最大限の実装性能とは? この答えは容易ではありません。ラックマウントシャーシがどのような用途で使われるかによって、その実装性能に求められる要素は多様です。ある場合は、極力多くのドライブの実装が必要かもしれません、ある場合は高性能な大型マザーボードスペースが必要かもしれません。また、ある場合は電源ユニットの故障回復時間の短縮のため多重化電源を搭載できる必要があるかもしれませんし、ある場合は発熱をより強力にシャーシの外へ吐き出すための大空冷排気量を要求されるかもしれません。このほかにも、ホットスワップドライブアレーが必要かもしれませんし、1台の占有スペースを最小にしたいかもしれません。従って、用途によって多彩な構成のシャーシが要求されます。数サイズ(デスクトップ、ミニタワー、ミドルタワー、フルタワー)あればあとは全面パネルデザインで製品レパートリをまかなえるデスクトップPCとは異なり、ラックマウントシャーシの専門メーカは非常に多くの構成を用意しています。
■ラックマウントシャーシの材質について
ここで一つ、ラックマウントシャーシに用いられる鋼板について説明してみます。
硬性が要求されるため、普通、ラックマウントシャーシには冷間圧延鋼板が用いられます。冷間圧延鋼にはさまざまなものがあり、表面処理材質や処理方法に違いがあります。SPCC材に亜鉛鍍金を施したもの、鍍金を省略するために鋼板自体に表面処理が施されたSECC材、SGCC材が用いられます。

 SPCC+亜鉛鍍金
SPCC材は標準的な鋼板ですが、表面処理はされていません。時にSECC材より低品質な鋼板として説明されていることがありますが、これは鍍金を施さないSPCCとSECCを比較したもので、鍍金を施したSPCCは美しい金属表面を持ち、高級感があります。CTS社の多くのシャーシはSPCC鋼板を材料として製造し、前段やプレス等の加工をした後で亜鉛鍍金が施されるため、鋼板全体が鍍金され、切口もプレスの擦り跡も鍍金層に覆われる、長期間に亘り美しい美観を維持します。
蛇足ですが、鍍金は工場の品質管理が問われます。工程中の洗い処理が疎かだったり、鍍金層が薄いと劣化の早い鍍金になります。

 SECC
SECC材は表面処理鋼板中て最も低価格な鍍金不要な鋼板です。このため低コストのラックマウントシャーシ製品にはもっぱらSECCが用いられます。SECC鋼板を使用した場合、切口やスポット溶接痕は特に発錆が始まり易い問題があります。
CTS社のラックマウントシャーシでも、低価格化のために、比較的単純な構造のトップカバーにSECC材を用いたものがあります。この場合、外装塗装時に切口も塗装して切口の発錆を抑えています。
SECCをシャーシの取材として製造されるシャーシの中に、材料選択と同時に板厚を抑えて低コスト化を図る結果、硬性が不足し、撓み、歪みが大きい製品が見受けられ点は注意が必要です。

 SGCC
SGCC材は溶融亜鉛鍍金が施された冷間圧延鋼板で、SPCCに亜鉛鍍金を施した物ような鋼板表面の美しさはありませんが鍍金層が厚く(ブリキほど厚くはない)防錆性に優れています。米国メーカの製品に良く見受けられ、またCTS社のシャーシにも一部でSGCC鋼板を用いた製品があります。概観は少し黒っぽく、よく見ると小さな花紋が見られます。
  • 詳細写真は下の写真をクリック
[SPCC etc.]
■ラックマウントシャーシ選定のポイント(問題点)
ラックマウントシャーシには様々な要求要素があることから、その広がりは大変に広いものです。Easy-Buyオンラインショップが扱う、CTSのシャーシは、非RAIDのIPCシャーシ、RAIDのサーバシャーシ、ドライブ専用のストレージシャーシ、床置/壁実装のボックス系シャーシなどがあり、それらに多様なユニット高の、多様なドライブ構成のモデルがあります。その数は基本敵標準モデルで数百種類を数えます。シャーシを選定される場合、このレパートリの豊富さは却って選定に混乱をきたしているかもしれません。
そこで、ごく基本的な選定のノウハウを記させていただきます。

 ユニット高
コンパクトな1Uシャーシが魅力的かもしれません。重厚な4Uが好みかもしれません。はて、何Uを選ぶべきでしょうか?選定にそれなりの理由があるとは思いますが、1Uと2Uの選定には次の事柄をまず整理しておく必要があります。

 1U,2Uシャーシは電源ユニットと一括で購入する
1Uと2Uは当然、高さ方向の寸法が小さい。これは魅力であると同時に、制約でもあります。最近では1U用も2U用も電源ユニットについては入手しやすくなりました。ただ、1U、2Uの電源ユニットには基準になる外形規格がありません。各社の電源は同じように見えて、実は細かく見れば少しづつ寸法や穴位置が異なることが多いものです。その違いは鑢工作でカバーできないことはありませんが、1U,2Uシャーシは電源ユニットと一括で購入することをお勧めいたします。或いは、適合するブラケットが入手できる電源メーカを確認しておくと良いでしょう。

 1U,2UシャーシはCPUクーラが難しい
1U,2Uシャーシを希望する場合は、まずCPUクーラの入手を確認する必要があります。自励式或いはアクティブ式と言われるファンを用いたCPUクーラはシャーシに収まるだけではなく、ファンが有効に動作できる空間が確保できるか否かを確認し、そのクーラの入手が可能か否か確認することが絶対必要な条件です。

 1U,2Uは拡張カードにライザカードが必要
2Uの場合はロープロファイル型の拡張カードが利用できれば問題はありませんが、それ以外の場合は拡張カードは垂直に実装できません。従って、ライザカードが必要になります。従って、採用するマザーボードと拡張カードの目星がついたらライザカードの入手が可能か否かを確認する必要があります。ライザカードは各種のものを製造する専門メーカがありますが、業者間取引以外を受け付けません。言い換えれば、種類あたり500枚の購入ができなければ自由に入手することは困難と考えられます。必ずライザカードの入手を確認する必要があります。

 ATXシステムなら3Uが便利
フルハイトの拡張カードを使用しないシステムなら3Uシャーシがフレンドリーです。フルハイトカードとはPC-AT時代に在った背の高い拡張カードです。現在も専門分野の実装規模の大きな拡張カードではフルハイトの拡張カードが用いられます。3Uシャーシにはフルハイトのカードは実装できませんが、拡張カードを縦に実装可能です。
電源ユニットは2U型または前面実装のPS/2型が使用でき、十分な容量の製品も比較適用に確保できます。また、CPUクーラも比較的容易に適合するものが確保可能です。

 なんと言ってもルーツは4U、最も使いやすい
4Uシャーシは高さが4U、つまり176mmほどあります。このサイズはデスクトップ横置きの標準的なPCケースに近く、内部に実装するものもかなり自由に選択可能です。
4Uがサイズ的に冗長だとして嫌う傾向も見られますが、本当に1Uや2Uが必要なのか論理的にチェックしてみてください。たとえば、エンクローズドラックに実装する場合、そのラックは41Uとか42Uが実用的です。低架高のラックを好まれる場合もありますが、一度ラックを立てればその上は天井まで他の目的にはほとんど使用できないからです。そのラックには4Uなら10台分の実装スペースがあります。多少、他のデバイスを実装するにしても、何台もの4Uシャーシが実装可能でしょう。
4Uシャーシはドライブ類の実装も大変に容易です。CPUクーラも特殊ではありません。使用してみて保守もしやすく安心感のある実装が実現します。そして、何より世界中で最も多く利用されているため、標準的なモデルの製造量は大変に多く、製造工法にも費用がかけられています。1U,2U,3Uに比較して4Uシャーシは価格も安いものです。更に4UにはPS/2計上の電源ユニットがそのまま実装可能です。これらのことから、経済的でもあり、まず、4Uをお勧めします。海外の計測システムメーカの多くがCTSの4U型ラックマウントシャーシ、GH-400ATXやGH-414ATXを採用しているのも、これらが安定で経済的な製品であることの売らず毛と言えます。

 5U以上、その他の形状
5U以上のラックマウントシャーシは特別な実装要求がある場合に必要になります。通常のラックマウントシャーシの選定においては、まず、4Uの利用を検討し、不都合があればその不都合なりに5U以上、或いは3U以下に検討を移すことが実際的ではないかと考えます。

 迷ったらMailで質問を・・お待ちしています
検討の結果、どうしても的が絞れないこともあるでしょう。最後に迷ったら、どうぞ遠慮なくお問い合わせのメールをお待ちしています。
■写真でご覧いただく・・こんなシャーシは選んではいけない
ラックマウントシャーシの専門メーカは多様なモデルを用意する必要があることを上述しましたが、昨今はPCマーケットの変化により、一般のPCケースメーカがラックマウントシャーシを製造する例も出てきました。多くのばあい、このようなメーカは2U,3U,4Uの各Uモデル1,2種類づつを製造していますので、製品の幅を見ればどの程度のメーカ化は推測できます。モデル数が少ないメーカは、概ね低価格な製品を製造しています。そのようなメーカの中に、ラックマウントシャーシの基本的要求事項を満たしていない製品が見受けられ、私どもは気をもむことになります。入手したサンプルから、それらがどのようなものか、写真でご覧き、シャーシ選択時のご参考に供したく思います。
このメーカはプロを自称しますが、ラックマウントシャーシの製造に必要な経験や技術がないのは一目瞭然です。単に、一般PCケースマーケットの縮退をうけて数年前から低価格なシャーシを製造し始めたメーカと認識しています。そのメーカから、「米国の○○社に納品が決まったモデルで、是非御社でも取り扱って欲しい」とのメッセージ付で届いたサンプルの写真をご紹介します。
米国の会社もいろいろあると思ったり、我々がこのようなシャーシを喜んでお客様に提供すると思われて侮られたかと感じて悔しかったりです。是非、こんなラックマウントシャーシを選ばないためのご参考としてご覧いただきたくい思います。


 写真1
SECC鋼板は切口から錆び易いことがお分かりいただけると思います。SECC鋼板使用の場合はメーカを問わず共通の問題です。

 写真2
シャーシのコーナの一つを持ち上げると全体が容易にゆがみます。まず、構造設計に問題がありますが、全体的に加工精度にも甘さがあるための問題でもあります。

 写真3
設計、製造の甘さは力がかかるコーナに、変形を生みます。このサンプルの場合、このような歪みはこの部分のみではなく、あっちもこっちも、見れば見るだけゆがみだらけになっています。拡大写真でわかりますが、側壁のそばに見えるドライブ用のケージもブヨブヨと曲がり、成型が不完全です。

 写真4
SECC鋼板1.2mmを使用していましたが、その鋼板の材質まで疑いたくなるほどで、この写真はシャーシの両側壁がこのように曲がっています。写真はシャ-シ背面から前面方向を透かし見たものです。全体的に、専用の金型が必要な絞り加工がないため(せん断して曲げただけの板金は)捻りに弱い、その結果撓みやすく歪み易いシャーシになってしまいます。

 写真5
こんなシャーシは・・・の集大成のような驚くべき状況です。ラックのマウントレールに固定するブラケットが変形しています。輸送中の扱われ方にも問題の原因はあったかもしれませんが、このブラケットではラックマウントシャーシをラックに確実に固定することはできません。例え、固定できても、その後どのような状態になるかが推測できると言うものです。ブラケットは付いていれば良いというものではなく、シンプルな金具であっても求められる機能があります。



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